「プリセプター養成セミナー」という謎の響き ー藤渕安生

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■プリセプター。言葉の響きがいい。「プリ」。可愛らしさがある。「セプター」。ちょっとSFっぽい。ガンダムのモビルスーツの名前でも通じそうだ。「プリセプター・ガンダム」。いや、違う。これは、新人育成担当者の話だ。介護現場における、いわば先輩職員の役割を担う人々のことを指す。

■2025年3月24日(月)、高口光子の「介護現場における新人育成担当者(プリセプター)養成セミナー」が開催される。タイトルが長い。長すぎる。しかし、そこには明確なメッセージがある。「新人をただ放り込んではいけない」「育て方にも技術がいる」「先輩が後輩をどう導くかは、介護の質を左右する」。たぶん、そういうことなのだろう。

■ところで、私は「プリセプター」という言葉を初めて聞いたとき、広島のアンダーグラウンド・ヒップホップ界隈を思い出した。なぜか。理由はわからない。でも、確かに思い出したのだ。あの頃は、独特のフローでそこそこ賑わせたものだ。あっはっは。

■ヒップホップには、「ヤンキーながらの先輩後輩の文化」がある。先輩が絶対で、後輩はとにかく背中を見て学ぶ。もちろん、無駄に体育会系ではないけれど、礼儀はある。「お疲れっす!」のトーンひとつで上下関係が決まる。介護の現場も似ている部分がある。経験者が未経験者を育てる。これは、HIPHOPで言えば、フリースタイルのバトルで、後輩が先輩のライムを浴びながら成長していくようなものだ。

■「プリセプター」は何をするのか

■このセミナーの内容をざっくりまとめると、「新人がスムーズに職場に馴染めるようにするための先輩職員の育成」ということになる。簡単に言えば、介護の現場で「OJTをどう機能させるか」を学ぶ場だ。

■しかし、OJTと言われると、「見て覚えろ」「背中を見ろ」的なブラックな香りが漂うことがある。もちろん、現代の介護現場ではそんなやり方は通用しない。介護は技術と哲学の両方が必要な仕事だからだ。「食事介助」ひとつ取っても、「とにかく食べさせればいい」わけではない。利用者がどんな人生を歩んできたか、どうすれば食べることが楽しみになるのか、そういう視点を持つことが重要になる。

■プリセプターは、新人に技術だけを教えるわけではない。「介護とは何か」「この仕事の意味は何か」そういうことも伝える。だが、こういう話は理屈っぽくなると響かない。だからこそ、実践を通じて伝えていくのがプリセプターの役割だ。

■「プリセプター」と「HIPHOPのサンプリング文化」

■ヒップホップのトラック(曲)には「サンプリング文化」がある。良いものを真似して取り入れる。トリビュートとしてパクる。それは単なるコピーではなく、オマージュであり、文化の継承なのだ。介護の技術も同じだ。「先輩のいい技術はどんどん盗め」と言われる。昔からの「美味しいケア」「うまいやり方」は、新人が学び、それを自分なりにアレンジしていく。その流れがなければ、文化は衰退する。

■HIPHOPでは、名トラックは何度もサンプリングされる。例えば、James Brownのビートは数え切れないほど使われている。介護の世界でも「名技」は受け継がれる。「この手の添え方がいい」「この声かけがいい」「この瞬間にこうすれば利用者が安心する」。そういう「技術のビート」を後輩が拾い、次の世代へと繋げていく。

■「わからない」ということを大切にする

■介護の現場では、「わからないこと」が山ほどある。「この利用者さんは何を考えているんだろう」「どうすれば気持ちよく過ごしてもらえるんだろう」──そんな問いに、明確な答えがないことも多い。でも、「わからない」からこそ、対話が生まれる。「こうすればいいんじゃないか」「こうやってみようか」と試行錯誤することが大事なのだ。

■介護の新人が「わからない」と言ったとき、「そんなの見て覚えろ」ではなく、「一緒に考えてみよう」と言えるのが、いいプリセプターなのだと思う。

■セミナーに行くべき人

■このセミナーは、「介護の現場で新人をどう育てるか」に悩んでいる人に向いている。特に、「なんとなく指導しているけど、うまくいかない」と感じている人。「教え方がわからない」と思っている人。「後輩がすぐに辞めてしまう」と困っている人。

■たぶん、そういう悩みは、ちょっとした工夫で解決できる。セミナーでは、その「ちょっとした工夫」を教えてくれるはずだ。参加すれば、新人指導が変わるかもしれない。いや、変わらないかもしれない。でも、それは行ってみないとわからない。

■プリセプターと介護の未来

■HIPHOPも、介護も、伝承が大事だ。「誰かから何かを受け取り、それを誰かに渡す」。この流れがなければ、文化は衰退する。介護の仕事は、技術だけではない。人の気持ちを汲み取る仕事だ。その感覚を、新人にも伝えていく。そのために、「プリセプター」という存在が必要なのだ。

■というわけで、もしあなたが介護の現場で「教える側」になっているなら、一度このセミナーに行ってみるのもいいかもしれない。何か新しい視点が得られるかもしれないし、得られないかもしれない。でも、何かを知るには、まずそこに足を運ぶことが必要なのだ。ピース。

ー藤渕安生

 

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